職場でのメンタルヘルス対策がよく話題になっています。この問題については、厚生労働省のウェブサイトが参考になります。
最高裁判所の判例
さて、一般的には長時間労働によって、うつ病になったり、自殺したり、というイメージがあるかと思います。
最高裁判所の判例でも、その因果関係を認めた事例が確認できます。先ほど紹介した「こころの耳」から引用します。
[事例1-1] 長時間労働の結果うつ病にかかり自殺したケースの裁判事例(電通事件、2000年3月24日最高裁第2小法廷判決)
裁判における争点は、(1) 業務と自殺との間に因果関係が認められるか、(2)会社に義務(注意義務ないし安全配慮義務)違反があったか、(3) Aの性格や両親の対応などを損害額算定の際に減額事由として考慮すべきか、の3点です。
最高裁判所の判断は、上記(1)の点については、長時間労働によるうつ病の発症、うつ病罹患の結果としての自殺という一連の連鎖が認められ、因果関係ありとされました。それまでの裁判例では、自殺という行為は、本人の判断能力が認められる場合、業務との間の因果関係を認めることに慎重でしたが、本件では、上記のような連鎖が認められる限り、本人の判断能力は問題とされませんでした。したがって、本判決は、従業員の過労自殺に関わる民事上の損害賠償請求事案について、因果関係を認めた初めての最高裁判決として重要な意味を持っています。
医学的にも明らか?
それでは、医学的見地からはどうなっているのでしょうか。当然、その関連が示唆されているのだろう、と思いますが、果たして・・・?
まだまだ情報収集途上ですが、PubMed検索でひとつ気になる日本のシステマティックレビューがありましたので、ご紹介したいと思います。日本語の論文で、PDFも入手可能です。
システマティックレビュー(2006年)
Fujino Y, Horie S, Hoshuyama T, Tsutsui T, Tanaka Y. [A systematic review of working hours and mental health burden]. Sangyo Eiseigaku Zasshi. 2006 Jul;48(4):87-97. Review. Japanese. PubMed PMID: 16908956.
- P▶ 労働者のうち
- E▶ 労働時間が長いと
- C▶ 労働時間が長くない人に比べて
- O▶ 抑うつ・うつの発症は多いか
- T▶ 予後、システマティックレビュー
《結果》※
今回のレビューの結果、労働時間とうつ・抑うつなどの精神的負担との関連について、一致した結果は認められなかった。17の文献のうち、精神的負担の指標と正の関連を報告した文献が7編、負の関連を報告したものが1編、関連を認めなかったものは9編であった。
コホート研究や横断研究などの17編をレビューしています。曝露指標(労働時間)やアウトカム指標(抑うつ・うつ)の定義が研究によって大きく異なるため、結果の統合はできなかったようです。
特に、労働時間については、質問票による自己申告が多く含まれ、妥当性の面で問題があることを著者らは指摘しています。
また、「精神的負担を感じている労働者は、すでに労働能力が低下しているか、自己もしくは組織的な管理を受けているため労働時間が少なくなっている」という、因果の逆転が生じている可能性も指摘しています。
このように、この種の研究の難しさを露呈してはいますが、過去の研究結果からは、予想外な結果となっているようです。
もう少し調べてみたいと思います。
長時間働くとうつになりますか?
- 最高裁では関連を認めた判例がある。
- 2006年までの医学的知見では一致した結論は得られていない。